先週大阪に帰ると、
アトリエのとなりの池に、今年も鴨たちがやって来ていました。
朝、太陽が昇りようやくあたたかくなる9時半ごろ、池の東側で寝ていた鴨たちは連れ立って西側へと移動します。きっと東から昇った太陽が、先に西側の水を温めるのでしょう。
私のモデルの仕事も、その頃スタート。
今回の絵は、春にアトリエを改装して新しくできた窓辺で読書をしている様子でモデルになりました。この窓は前述の池に面しており、可愛い鴨たちの様子や、ちゅんちゅんと鳴く雀たちの様子がよく見えます。
いつも製作中は音楽をかけたり、父とお話したりなのですが、今回は本の内容がおもしろかったため、父も聞けるように朗読をしながらモデルをしました。
なんの本を読んでいたかというと、『美の鼓動』という本で、これは姫路の森画廊の森崎さんという画商さんが書かれた本です。森崎さんは、勉強家で情熱家、とても信頼のおける画商さんです。
この本は、森崎さんのこれまでの画商生活のなかで出会った絵や画家との出会いの話を綴ったもので、森崎さんの、絵をいつくしむまなざし、絵の持つ力への賞賛、画家を敬愛する心が直に伝わる、とてもいい本です。そして言い換えればこの本は、私たちに絵の見方、感じ方を導いてくれます。
人それぞれの好みがあり、私は父の影響もあって、明るい絵が好きです。いい絵をみたら心がきゅんとなって感動します。
今までは、自分の直感で好みと思った絵だけを見てしまっていましたが、この本を読んで、今度はいろんな絵を理解しようと試みたいと思いました。
暗い絵を見たときの胸騒ぎ、嫌いと思う気持ち。でもそれももう少し突き進めば画家のエネルギーが理解できるかもしれない。それから好き嫌いを決めようと思いました。すると、これから絵を見る楽しみが倍に増えた気がして嬉しかったのです。
この本では、絵描きさんたちの経歴や生活スタイル、信条なども説明されています。山頭火の世界を求めて旅をした池田遥邨、わが身を削り命を燃やして制作に没頭した鴨居 玲、花を愛し虫を愛し、絵と詩に残した中村忠二、他に小磯良平、佐伯祐三、舟越保武、香月泰男、竹内栖鳳など。
いろんな絵があるけれど、その美の感覚や絵を描くときの心はみな同じで、何を狙うわけでなく、ただひたすらに自分の心に写った自然を絵筆に託すだけ。
森崎さんの本のおかげで、アトリエはほどよい緊張感と純粋な空気に包まれ、父の新作もあたたかな雰囲気のする良い滑り出しとなりました。
『美の鼓動』 森崎秋雄著 を読みたい方はこちら
↓
http://www.mori-gallery.jp/publishing.aspx