今日は河内国昭さんの画集を紹介いたします。
立派な装丁の表紙を開けて、1ページ2ページとページをめくっていると、ふと油絵の具の匂いがしました。
ドキっとしました。
正体は印刷インクの匂いなのですが、河内さんの絵の生き生きとした筆遣いと絵から伝わる新鮮な空気に、私は、今写生から帰ってきて合わせていたキャンバスを開いて見せてくれたかのような、まだ乾いていない絵の具が香るようなそんな錯覚におちいったのでした。
京都市西京区にお住まいの河内国昭さんは、その生涯を通して、京都西郊乙訓地方の風景を写生しておられる絵描きさんです。
乙訓地方とは、南は大山崎、北は嵐山にいたる、京都市の西数キロメートルに渡る地域だそうで、長岡から桂、大原野あたりは京都でも比較的開発の波がゆるやかで昔の美しい面影をとどめているそうです。
嵐山、桂、大原野。源氏物語などに登場する風流な地名ですが、河内さんの絵のなかのそれらは、「昭和」の風景。
河には鉄の橋がかかり、電信柱が立ち、駐車車両がある。
それは、理想郷などとは程遠く、ただありのままの、町内の、街外れの川原の、山の方の柿畑の風景です。それがなんとも懐かしい気持ちを思い起こさせてくれるのは、まさに私達が生まれて育った昭和の時代であり、生活してきたその場所を題材にしてるからなのだと思います。
ちょうどお友達がいたので、この画集見て何を思う?
と聞いたら、「なんだか子供の頃の夏休みを思い出す」と言いました。
日が傾き、影が長くなり、うんと遊んだ一日が終わります。
おなかがすいたな、今日のご飯はなんだろな。
そんななにげない感情を思い出させてくれる、「ぬくもり」を感じさせてくれる絵です。
さて、父と河内さんとのご縁ですが、昔から共に一水会に出品しておりました。ですが特に接点はなく、親しくさせていただくようになったのはある時、河内さんが父の個展にいらしてくださったのがきっかけでした。
何度か写生旅行を共にし、河内さんを知るほどに思ったことは、絵を愛する心と、自然の中で対象を取り組む姿勢の尊さだと父は言います。
京都大学工学部航空工学科の修士課程を卒業され、絵を描くために定時制高校の先生という職を選び、昼は風景画の製作に、夕方から定時制高校の生徒達に数学、物理を教え、また美術倶楽部の顧問として指導されるという生活を退職されるまで続けられました。
もしかするとロケットを打ち上げたりしてるかもしれなかった河内さんが、こうして西京の平凡な自然を毎日キャンバスに留める。
絵に対する情熱に感じ入ります。
また、河内さんは、師である井垣嘉平氏の作品を遺族より預かり、その功績をより多くの人に紹介したいと遺作展をされ、さらには自宅に「井垣・河内アーチストホーム」を設立しその作品を展示しておられます。
デッサンの力量、構図の確かさ、その人柄を物語るような優しく誠実な絵。
父は河内さんをとても尊敬しています。
河内国昭 作品集
価格 8,500円(送料込み・お求めはアーチストホームまで)
アーチストホーム
京都市西京区大原野上里勝山町11-10
(阪急電鉄京都線「東向日」駅より阪急バス64番「勝山町」下車バス停前)
TEL:075-331-3323
開館:土曜、日曜日 午後1時~4時